手術の死亡率47%減。奇跡を起こしたのは「1枚のチェックリスト」だった

一般外科医としての経験をもとに書かれた、アトゥール・ガワンデ著『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』(2009年)は、航空、エンジニアリング、医療といった複雑な専門分野において、ごく単純なチェックリストの活用が人為的ミスを大幅に減らせるという驚くべき証拠を明らかにする一冊です。

人類の知の進歩は、ますます複雑で膨大なものになっている。

1950年代に心臓発作の治療を受けることを想像してみてほしい。当時は心臓病の原因に関する医学的知識が極めて乏しく、処方されるのは鎮痛剤と安静のみだった。さらに、回復中にタバコを吸いたいと思っても、それさえも問題にされなかったのだ。

幸いにも、それ以来人間の知識は大きく拡大した。わずか60年前、医師たちは心臓発作の治療法をほとんど知らなかったのに対し、現在では血圧降下薬、心臓カテーテル、さらには開胸手術に至るまで、数多くの治療法が存在する。さらに、コレステロール降下薬から運動量の増加まで、そもそも心臓病を予防する方法も数多く存在している。

しかし、医療のような複雑な分野では、幅広い知識基盤が両刃の剣となってしまった。世界保健機関(WHO)によれば、現在定義されている症候群、疾患、外傷は13,000を超える。そこに、患者を治療するために利用可能な何千種類もの薬剤や治療法を加えると、一人の医師や医療チームが蓄積されたすべての医療知識を習得することは、到底不可能だということがわかる。

ここから生じるのが、不手際という問題である。つまり、適切な知識を常に正しい方法で記憶し、整理し、適用することに、私たちは苦闘しているのだ。外科医も看護師も同様に、最新の医療技術を習得し、同時に複数の患者に対応し、複雑な医療行為を正確に遂行するために必要な膨大な数の手順を実行しなければならないという計り知れないプレッシャーにさらされている。さらにその間にも、病人に対処する際に起こる予期せぬ反応や結果に、同時に対処しなければならないのだ。

膨大な医療知識を活用し、致命的になり得る人為的ミスを避けるためには、明らかに新しい種類のツールが必要である。

人類の知の進歩は、ますます複雑で膨大なものになっている。

チェックリストは、深刻だが容易に回避できるミスを防ぐ。

サンフランシスコの手術室チームは、浅い刺し傷だと思い込んで男性の治療にあたり、悲惨な事態に直面した。外科医がメスを入れた後、患者から大量の血液が噴き出して初めて、傷の長さが30センチもあることに気づいたのだ。実際には、ハロウィンの仮装パーティーで男性が受けた銃剣による傷だった。残念ながら、手術前に医療スタッフの誰も、どんな凶器が使われたのかを尋ねることを覚えていなかったのだ。

男性は一命を取り留めたが、医療現場におけるミスや誤った情報は恐ろしいほどの頻度で起こっており、深刻な合併症や死を招くこともある。米国では年間5,000万件以上の手術が行われ、そのうち15万人以上の患者が手術後に死亡している。研究によれば、これらの合併症や死亡の約半数は回避可能だという。

では、どうすればミスの数を減らすことができるのだろうか?

最新の医療技術に莫大な費用を投じるよりも、答えははるかにシンプルだ。チェックリストを使うことである。

チェックリストは、その名が示すとおりシンプルだ。手順を実行する際に完了すべきステップのリストである。驚くべきことに、誰もが知っているはずの当然のステップこそが、最も重要であるにもかかわらず、忘れられたり飛ばされたりすることが多いのだ。チェックリストは、先に進む前に「どのような武器が使われたのか?」と確認するなど、当然のことを確実に押さえるための安全網として機能する。基本的な事項をチェックしてしまえば、各患者に固有の、より複雑で予測不可能な問題に取り組むための心の準備がより良く整うのである。

上記の銃剣による負傷事例でチェックリストが使われていれば、医療チームは血なまぐさい不意の事態に対して、より良く備えることができていただろう。

チェックリストは、深刻だが容易に回避できるミスを防ぐ。

チェックリストは可能な限り短く、すべての必須ステップを含み、誤解の余地を残さないものであるべきだ。

チェックリストを軽視するのは簡単だ。特に、私たちの多くはそれを走り書きの覚書や、大げさに言ってもTo-Doリスト程度に考えている。しかし、必要不可欠な項目をすべて含み、簡潔で使いやすければ、チェックリストは強力なツールになる。

チェックリストの本質的な側面の一つは、手順における「キラーアイテム」を含んでいることだ。これらは、つい軽視されがちだが、実行しなければ悲惨な結果を招きかねないステップである。たとえば、手術前に患者のアレルギーを確認することを促すリマインダーがこれに当たる。

必要な項目をすべて含むべきとはいえ、チェックリストは網羅的なガイドであってはない。ボーイング社で航空チェックリストを作成しているベテランパイロット、ダニエル・ブーアマンは、5〜9項目程度が理想的で、リストを一通り確認する時間にも制限を設けるべきだと言う。リストを1分ほど読み続けると、人は気が散り、重要なステップを飛ばしてしまう可能性があるのだ。

チェックリストは使いやすくもなければならない。著者であり外科医でもあるアトゥール・ガワンデは、自身のチェックリストの初期バージョンを導入した際、手術の直前にチームの看護師を混乱させてしまった。チェックリストの使い方が明確でなかったためだ。看護師は、ガワンデが意図していたように各ステップを手術チームに読み上げて一つずつ確認するのではなく、手術が始まる前に手順のステップをすべてチェックしてしまったのである。

混乱を避けるためには、そのリストが「READ–DO(ステップを読み上げてから実行する)」なのか「DO–CONFIRM(ステップを実行してから完了を確認する)」なのかを明確にすべきだ。また、リストは使う人々が慣れ親しんだ言葉で書かれるべきである。たとえば、レストランで「fire mushrooms」(つまり「今、キノコに火を入れろ」の意)と書かれているようなものだ。

次にチェックリストを作成するときは、正確で使いやすく、最重要項目だけを含むように心がけよう。

チェックリストは可能な限り短く、すべての必須ステップを含み、誤解の余地を残さないものであるべきだ。

今日の複雑なタスクは、もはや一人のヒーローの専門知識だけに委ねることはできない。チームが必要なのだ。

私たちはしばしば、ヒーローが恐ろしい状況に颯爽と現れ、生涯かけて培った技術と経験をもって、すべての問題を一気に解決してくれることを望む。一人の専門知識が問題解決に十分だという考えは確かに魅力的だ。しかし、それは不正確でもある。

複雑で危険な状況において、本当に重要なのはチームなのである。

工学の世界では、かつて建物はプロジェクト全体を監督する棟梁(マスタービルダー)によって完成されていた。しかし現代では、一つの建設プロジェクトを完成させるには、機構設計から石工、防水工事、害獣駆除に至るまで、あらゆる分野を扱う専門家同士の連携が必要とされる。

チームは、緊急事態や危機的状況に対処する際に特に不可欠である。2009年のハドソン川への飛行機墜落事故の後、メディアはチェズレー・B・サレンバーガー機長を「キャプテン・アメリカ」と持ち上げ、死者ゼロという奇跡の不時着のヒーローだと称賛した。しかし、サレンバーガー自身はチームの努力の成果だと主張した。事故に関する情報が明らかになるにつれ、サレンバーガー機長、副操縦士のジェフリー・スカイルズ、そして残りの乗務員の協力なしには、あれほど安全に着陸することはできなかったことが明らかになった。

医療も同様だ。手術を受ける患者が必要とするのは、外科医だけではない。麻酔科医、看護師、外科医が一丸となって働き、それぞれの専門性をチームとして活かして初めて、手技は成功するのだ。

プレッシャーや複雑さに直面したとき、複雑な手技を成功させるのは往々にして、一人の人物ではなく、多くの人々の行動と技術であることを認めなければならない。

今日の複雑なタスクは、もはや一人のヒーローの専門知識だけに委ねることはできない。チームが必要なのだ。

複雑な状況においてチーム内のコミュニケーションは極めて重要であり、チェックリストによって大きく向上させることができる。

飛行機の乗務員が着陸させる場面を想像してみてほしい。このような複雑で緊迫した状況で、互いにコミュニケーションが取れなかったらどれほど悲惨なことになるだろうか。機長は着陸が安全かどうかわからず、副操縦士はいつ操縦を代わればいいのかわからず、客室乗務員はいつ安全確認を行えばいいのか見当もつかないのである。

複雑なタスクに取り組むチームには、シームレスなコミュニケーションが必要だ。上記の例では、乗務員はチェックリストを持っているかもしれないが、明確にコミュニケーションを取らなければ、そのチェックリストは無意味になる。

コミュニケーションは、情報の流れを改善することを目的としたステップをチェックリストに組み込むことで向上できる。たとえば、ボストンの構造エンジニアであるジョー・サルビアは、建設に関わるチームが次の段階に進む前に、いつ情報を更新し、確認し、互いに協力すべきかを概説した「サブミッタル(提出確認)」チェックリストを使用している。

コミュニケーションを改善できるもう一つのチェックリストのステップは、チーム「ハドル」だ。これは、手順の開始時にチームメンバーが自己紹介をし、起こり得る合併症について話し合う機会である。相手の名前を知らない人々は、知っている人々ほど協力し合えないことが研究で示されている。このため、著者の「セーフ・サージャリー・セーブズ・ライブズ(安全な手術が命を救う)」プログラムのチェックリストには、ハドルが必須ステップとして組み込まれた。このようなチームワークへの、よりコミュニケーション重視のアプローチは、医療合併症の減少と相関していたのだ。

プレッシャーのかかる状況下では、チーム内のコミュニケーションが極めて重要である。チームは、コミュニケーションをとる機会が事前に定められている場合、手順チェックリストの遂行により成功しやすい。

複雑な状況においてチーム内のコミュニケーションは極めて重要であり、チェックリストによって大きく向上させることができる。

医療チェックリストは、すでに多くの命を救ってきた。

単純なチェックリストが世界に大きな影響を与えるとは想像しにくい。しかし、チェックリストの使用を研究する医療プログラムは、チェックリストがミスを防ぎ、コストを削減し、そして何より命を救ってきたことを示している。

集中治療専門医ピーター・プロノヴォストが実施した「キーストーン・イニシアチブ」と呼ばれる研究は、集中治療患者の静脈に挿入される中心静脈カテーテルからの感染数を減らすことを目的としていた。中心静脈ラインは簡単に、そして頻繁に感染を起こす(たとえば、滅菌されていない手で触れられることなどによって)。これは患者にとって致命的となり得る合併症を引き起こす。プロノヴォストは、感染を減らす効果があるかどうかを確かめるためにチェックリストを導入した。結果は成功だった。このイニシアチブは、18ヶ月で1億7,500万ドルのコスト削減と1,500人の命を救うことにつながったのだ。

プロノヴォストの研究と工学・航空分野から着想を得て、著者と世界保健機関(WHO)は、「セーフ・サージャリー・セーブズ・ライブズ」プログラムと名付けられた取り組みで、世界8つの病院でテストするためのチェックリストを開発した。各病院は、予想される出血量の確認から、本当に正しい患者であるかの確認まで、19の必須項目からなるこの手術チェックリストの使用を求められた。結果は驚異的だった。8病院全体で、手術による死亡が47%も減少したのだ。

著者もまた、チェックリストの力を身をもって体験した。予想される出血量についての手術チェックを進めていたところ、万一必要になった場合に備えて、患者のための追加の血液が準備されていないことが判明したのだ。ガワンデは患者に輸血が必要になるとは思っていなかったが、チェックリストに従って追加の血液を手配した。手術中、ガワンデは偶然の裂傷を作ってしまい、患者は心停止に陥った。追加の血液は極めて重要であることが判明し、ガワンデはチェックリストがなければ患者を死なせていただろうと確信している。

シンプルなチェックリストを使うことは、単に強力なツールであるだけでなく、生死を分けることもあるのだ。

医療チェックリストは、すでに多くの命を救ってきた。

チェックリストは、さまざまな環境で効果を発揮する。

私たちの多くは、医療分野と同様、金融や飲食業界など、注意深さと正確さが求められる複雑な、あるいはプレッシャーの大きい環境で働いている。良い知らせは、このような張り詰めた環境において、チェックリストは私たちがより効果的に働くための大きな助けとなるということだ。

たとえば、ボストンのリアルト・レストランのシェフ、ジョディ・アダムズを例にとろう。ジョディが使うチェックリストは、たいていの人がレシピと呼ぶものだ。しかし、レシピとチェックリストは同じ機能を持っている。つまり、何をいつ行うべきかを教えてくれるのだ。ジョディは、自分のレシピを厨房の作業台に掲示していることに加えて、レストランのスタッフも個々の顧客の特別な要望が確実に満たされるようにチェックリストを作成している。料理が提供できる状態になったら、副料理長かジョディ自身による最終チェックを受け、ジョディの基準を満たしているか確認される。このチェックリストシステムによって、リアルトは一貫して素晴らしい料理を顧客に提供することができ、ジョディがその専門性で賞を受賞し、レストランが「ベストレストラン」リストに頻繁に登場するのも不思議ではない。

金融関係者もまた、性急な、あるいは情報不足の意思決定による不必要なリスクを避けるために、チェックリストを活用できる。数十億ドル規模のファンドを運用する匿名の投資家クックは、「三日目チェックリスト」を使っており、これは彼と彼のチームが企業に投資するかどうかを決める助けとなっている。このチェックリストはクックに大きなアドバンテージ、すなわち効率性をもたらしている。この慎重かつ迅速な投資評価の方法は、他の投資家に対する優位性となっているのだ。

質の高い食事体験の提供から、大金を稼ぐ手助けに至るまで、地味なチェックリストは驚くべき結果をもたらし、さまざまな状況に応用できる万能ツールなのである。

チェックリストは、さまざまな環境で効果を発揮する。

最終まとめ

この本の主なメッセージ:

チェックリストは、不器用な人のためのTo-Doリストなどでは終わらない。プロフェッショナルや専門家にとって、信じられないほど効果的なツールになり得る。複雑な状況でよく練られたチェックリストを使えば、致命的になり得るミスや危険な見落としを確実に防ぐことができるのだ。

本書から得られる実践的なアイデア:

経験も専門知識もあるのに、いまだにタスクでミスがなくならない? チェックリストを使ってみよう。

自分のためのチェックリストを作るとなると、特に自分が何をすべきか完全にわかっている場合には、私たちは頑固になりがちだ。しかし、チェックリスト作成から最も恩恵を受けるのは、往々にして熟練した専門職なのだ。その理由の一つは、私たちがより複雑なことに集中することの方がはるかに重要だと誤って思い込み、明らかな「つまらないこと」を飛ばしたり忘れたりしがちだからである。しかし、その「つまらないこと」こそ、目の前の手順には不可欠であることが多い。チェックリストを使えば、必要なことを漏れなく実行でき、その結果ミスがはるかに少なくなることに気づくだろう。

職場でのチームプロジェクトに課題を感じていませんか? チェックリスト「ハドル」を試してみよう。

チームプロジェクトを始める際、プロジェクトにおける各人の名前と役割をチーム全員が把握しておくことで、コミュニケーションと情報の流れがよりスムーズになる。各プロジェクトや手順の開始時には、チームハドルの時間を取り、全員が自己紹介と役割を共有し、必要なメンバーには期待事項や、今後の過程で起こり得る問題を共有してもらおう。

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