なぜ私たちは「偽りの物語」に心を動かされるのか?

『マーケティングは「嘘」だ』では、ビジネスにまつわる本物で意味のある物語を顧客に語ることが、いかに製品を売り、長く強い関係を築く助けになるかを解説する。

この要約で学べること──マーケターを知ろう

こんな経験はないだろうか。すごく「イカした」CMですごく「イカした」商品を見かけて、いてもたってもいられずに買って帰ったのに、翌日には壊れる、動かない、あるいはCM(もうイカしてない)で約束されたことがまったく果たされない。マーケティングとは、アイデアを広めることだ。物語を語り、ときに嘘をつくことでもある。消費者の世界観や心の中に飛び込むことであり、マーケターはそれが得意だ。この要約で取り上げるのは、まさにそのこと。著者は『マーケティングは「嘘」だ』で、マーケティングの世界、マーケターの思考法、そして何十年にもわたって人々の人生に良くも悪くも影響を与えてきた物語(小さな嘘や詐欺まがいのものまで)をどう紡いできたかについて、鋭い洞察を示している。

この要約でわかること:

  • 消費者の世界観を見抜くことがなぜ大切か(ドクター・アトキンスはどう利用したか)
  • 人間がカエルと同じような戦略をとる理由
  • 許される「小さな嘘」と許されない「詐欺」の境界線

マーケティングとは、人々が信じられる物語を語ることだ

大昔、人々は毎朝太陽が昇ることに気づき、ヘリオスとその戦車の神話を生み出した。「マーケティング」という概念が生まれるはるか前の話だが、そこには優れた物語という共通点がある。効果的なマーケティングとは、信じられる物語を語ることだ。10代目ガラス職人のジョージ・リーデルはそれをよく理解している。彼の会社はガラス製品を製造しており、特にワイングラスが人気だ。彼は「すべてのワインには独自のメッセージがあり、どんなグラスかで飲むかでその伝わり方が変わる」と言う。リーデルの物語は驚くほどうまくいっている。科学的なテストでは彼のグラスと他のグラスに違いはないと証明されているのに、世界中のワイン専門家や愛好家は、リーデルのグラスで飲むとワインがおいしくなると主張するのだ。これがマーケティングの力である。ワインの味さえ変えてしまう。

リーデルのようなマーケティングが成功するのは、現代では人々が「必要なもの」ではなく「欲しいもの」を買うからだ。そこがマーケターの儲けどころである。こう考えてみよう。ある若い女性が125ドルのプーマのスニーカーを買ったとする。中国での製造原価は3ドルだ。彼女が買ったのは、耐久性や足のサポートのためではない。その靴を履けば、自分がかっこよくなり、人生もイメージも少し良くなる気がするからだ。

顧客の世界観を肌で感じ取れ

プーマのマーケターが彼女に本当に売ったのは「物語」だ。あなたは特別で、流行に敏感で、おしゃれだ──そんな物語である。人は物語を広める。機能そのものだけで買うことはめったにない。だから覚えておいてほしい。いい物語を語ることができれば、人々の心に届くのだ。

誰もが人生で同じものを望んでいると思うかもしれない。成功、安心、健康、愛、尊敬、幸福…。しかし、そう単純ではない。私たちはみな同じものを望んでいるわけではない。一人ひとりが独自の「世界観」を持っており、それはその人の価値観、先入観、思い込みで形作られている。両親、通った学校、住んだ場所、その他の環境が世界観に影響を与える。そしてどの物語を信じるかは、世界観が決める。

たとえば、前回中古車ディーラーで車を買ってだまされた経験があれば、次に別のディーラーに行くときの世界観は変わってくる。過去にそのディーラーで3回うまく買えた人とは、まったく違う世界観を持つだろう。顧客はみな同じではないし、かといって完全にバラバラなわけでもない。似たような環境で育った人は、似たような世界観を持つ。

マーケターとしての仕事は、ほぼ同じ世界観を持つ人々の集団を見つけ、その人たちにまっすぐ響く物語を語ることだ。たとえば、子供の成長と教育を最優先する新米の母親、次の栄養補助食品こそ完璧な体への近道だと信じるボディビルダー、次の技術革新が人類を救うと考える環境保護活動家。こうしたグループは、それぞれ自分の世界観に合った物語を聞きたがっている。

物語を顧客の世界観に合わせて仕立てろ

ディズニーの一部門である『ベイビー・アインシュタイン』は、2004年に新生児・乳幼児向けのビデオを1億5000万ドル分売り上げるという、素晴らしい物語を語った。そのブランド名と積極的なマーケティングキャンペーンによって、親たちは「このビデオが子供を賢くしてくれる」と確信したのだ。後の研究でビデオが子供の知能にほとんど、あるいはまったく影響を与えないことがわかっても、当時の親は子供の役に立っていると感じたかったのである。さて、こうして時間をかけて顧客層の世界観をしっかり理解したとしよう。次は何をすべきか。

次のステップは、その世界観に合った物語、すなわち「フレーム」を作ることだ。フレームによって、自分の物語を顧客にとって意味のある形で提示できる。『トゥインキー』や『ワンダーブレッド』を製造するインターステート・ベーカリーズは、顧客の世界観が変わったときに倒産した。ドクター・アトキンスの低炭水化物ダイエットが大流行したとき、人々はもはやトゥインキーのようなものを子供に食べさせたくないと思い始めた。もっと健康的なものを求めたのだ。その同じ時期に、ジェネラル・ミルズは世界観の変化をうまく利用した。アトキンスブームが起きてすぐ、同社は『ラッキーチャーム』を含むすべてのシリアルを100%全粒粉に切り替えて物語を調整した。自社のシリアルを健康的なものとしてフレーム化し、当時広まっていた炭水化物への否定的な見方と一致させたのである。肝心なのは、世界観ゆえに新しい物語を受け入れる準備ができている人々を見つけ出すことだ。

人は新しい情報にだけ注目し、それを理解するために物語を作る

上司から新しいタイプの塩味スナックのマーケティングキャンペーンを任されたと想像してみよう。スーパーにはすでにたくさんのスナックがあるから、目立つための物語が必要だ。たとえば、塩味スナックは子供に不健康だと考える新米の母親をターゲットにして、こういう物語を作ることができる。原料はジャガイモではなく大豆。オーガニック、低脂肪、塩はナトリウムではなく海塩。パッケージは袋ではなく箱で、売り場はスナック売り場ではなく青果コーナー。素晴らしい物語を語るための鍵は、脳が新しいアイデアにどう反応し、情報をどう処理するかを理解することにある。

何か新しいものに出会うとき、人はすでに知っているものと比較する。その点で人間はカエルに似ている。カエルは変化にだけ反応し、変わらないものは無視するのだ。カエルはどうやってハエを見つけ、舌を向けて1秒足らずで捕まえられるのか。周囲の動かないものはすべて無視して、環境の中の変化に目を光らせているのである。同じように、家に帰ったとき、何かが変わっていればすぐに気づく。人間は舌でハエを捕まえられないが、スーパーに新しいビールの銘柄が並んだり、郵便配達員が散髪したりすれば、すぐにわかる。

人は新しいものに気づくと、脳が今度はそれを理解しようと働き始める。脳は落ち着きがなく、ランダムな状態を嫌うため、見たものに対して自然と説明を探すのだ。窓ガラスが割れていれば、床に何か落ちていないか探すだろう。すぐに「どうやって割れたか」という仮説を立て、それが正しいか確かめようとする。『ニューヨーク・タイムズ』がかつてこの現象に関する記事を載せたことがある。iPodのシャッフル機能が壊れていると確信する人々についての記事だった。特定の曲を偏って再生していると思い込んでいたのだ。しかし、ランダムだからといって曲が均等に配分されるとは限らない。

本物の物語だけが人の心に深く響く

だからこそ物語が重要なのだ。物語によって私たちは世界を理解できる。新しい情報に人々を関わらせたいなら、自分の物語が本物であることを確かめなければならない。本物かどうかが、物語の成否を分ける。私たちはこれまで、意図せずとも外見で人を判断してきた。人はしばしば、ほとんど無意識に人や物に対して素早く判断を下す。マーケターの仕事は、顧客が最初に製品に触れたときに正しい判断を下せるようにすることだ。

顧客がブランドと「最初に接触する」ことと、「第一印象」を持つことは別物である。この二つはよく混同される。「最初の接触」とは、文字通り初めてブランドに触れることであり、必ずしも反応を生むとは限らない。一方、意味のある最初の反応が「第一印象」だ。たとえば、オンラインストアからプロモーションメールを受け取ったとしよう。それが最初の接触だが、その店について何か意見を形成するとは限らない。その後、靴を注文して届かなかった場合、それが第一印象となり、それは決して良いものではない。第一印象は極めて重要だが、ビジネスのどの側面が第一印象を生むかはわからない。だからこそ「本物であること」が重要なのだ。

物語が本物であるとは、ビジネスのあらゆる側面と矛盾なく一貫していることだ。製品、従業員、会社のメッセージすべてが相互に調和していなければならない。つまり、会社における「最初の接触」となりうるあらゆるポイントが、伝えたいメッセージと響き合っている必要がある。ロゴや店構えがかっこよくても、スタッフが無愛想だったり製品の質が低かったりすれば、物語は一貫せず、本物とは言えない。一貫性のある本物の物語なしに、多くの人にリーチすることはできないのだ。本物であることこそが、顧客基盤とつながる鍵である。

マーケターは「小さな嘘」と「詐欺」の細い線を越えてはならない

10ドルのケーブルと同等の性能しかないスピーカーケーブルを99ドルで売るのは倫理的におかしい、と普通は思う。マーケターは正直であるべきだし、消費者は合理的であるべきだ──残念ながら、そんなに単純ではない。人は買い物において常に合理的とは限らない。ほとんどの人は、品質や機能で製品を買っていると思いたがる。汗水流して稼いだお金を暮らしを良くする役立つものに使い、愚かな流行に浪費したりはしない、と。しかし、法外な値段の製品を買わずにいることはほぼ不可能だ。誰もがたまには、高価なデザイナーズTシャツを買ったり、話題のレストランで外食したりする。

マーケターは顧客の非合理的な行動を利用できることを知っている。だからこそ、製品を売るために「小さな嘘(フィブ)」を思いつく者もいる。フィブとは、企業の物語を実現させるためのちょっとした嘘であり、顧客に悪影響を与える必要はない。先ほどのワイングラス職人、ジョージ・リーデルはフィブの使い手だ。彼は言わば「誠実な嘘つき」である。彼は「自分のグラスは高級ワインの味を良くする」と顧客に語る。科学的には真実ではないが、顧客がそれを信じることで「本当のこと」になっていく。この種のフィブは無害であり、顧客体験を向上させることさえある。

しかし、マーケターが「詐欺」に手を染めるのは別問題だ。フィブと詐欺は同じではない。顧客に有害なあからさまな嘘をつくことが詐欺である。たとえば数十年前、ネスレは母乳よりも哺乳瓶の方が良いと顧客に語るという詐欺を働き、ユニセフによれば結果的に100万人以上の赤ちゃんの死に間接的に加担した。もしネスレが、母乳育児に悩む母親を対象に本物の物語を語っていたら、悲劇を避け、長期的なビジネスを築けたかもしれない。物語は顧客を助けるものでなければならず、傷つけるものであってはならない。

最終的なまとめ

顧客を知り、その顧客のためだけの特別で本物の物語を作り上げよう。スタッフから製品、ロゴに至るまで、ビジネスのあらゆる側面がその物語に合致していることを確認すること。自分と顧客の助けになるなら、無害なフィブを使っても構わないが、決して詐欺を働いてはならない。意味があり誠実な方法で人々に語りかければ、双方にとって有益な関係が築けるだろう。

実践アドバイス:物語は小さなオーディエンスに合わせて仕立てよ。 万人にアピールしようとしてはいけない。そうすると物語が薄まってしまうからだ。より具体的なオーディエンスを狙った物語のほうが、はるかに強力である。

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