『ラディカル・プロダクト・シンキング』(2021年)は、ゲームチェンジを起こす製品を開発するための段階的な方法論を解説する。近年主流となっている、反復を重視した製品開発手法に異を唱え、刺激的でビジョン主導型の代替アプローチを提示する。
あなたにとっての学びは? 製品開発への根本的に新しいアプローチ
どうすればiPhoneのようなビジョナリーな製品を生み出せるのか? スティーブ・ジョブズのような天才的な直感があれば話は別だが、ほとんどの人には無理だ。ゲームチェンジングなアイデアを現実に変える方法を、持って生まれた才能として持つ人もいる。しかし、そうでない大多数の人はどうすればいいのか?
必要なのは、より意図的で体系的な手法である。そこで登場するのが「ラディカル・プロダクト・シンキング(RPT)」だ。これは、世界にポジティブな影響を与える、革新的でビジョン主導の製品を構想し、開発し、提供するための一歩一歩の方法論である。この要約では、以下の内容を学ぶ。
- なぜTwitterの成功物語が手本にすべきモデルではないのか
- ビジネス戦略の中核に、人々の「本当の悩み」を据えるべき理由
- 製品に対して、あなたが間違った指標を追いかけているかもしれない理由
反復主導の開発が革命的な製品を生むことは、ほとんどない
昔々、2005年のことである。Odeoという小さな新興企業があった。彼らが自社製品に取り組んでいると、ある日ひどいニュースが飛び込んできた。Appleが、ポッドキャスト機能を内蔵したiTunesという新しいアプリをリリースしようとしているというのだ。Odeoの製品もポッドキャスト・プラットフォームだったから、大問題である。
Appleのような巨大テクノロジー企業に、到底太刀打ちできない。創業者たちは方向転換が必要だと悟り、社員から提案を募った。その中の一人が有望なアイデアを出す。ステータスを共有できるサービスだ。そのアイデアは何度も繰り返し改良され、ついにマイクロブログ・プラットフォームとして結実した。その社員の名はジャック・ドーシー、プラットフォームは後にTwitterと呼ばれる。同じように、「反復」を続ければいつか自分たちも「次の大ヒット」を掴めると思っていないだろうか?
それは大きな誤解である。ここでのポイント:反復主導の製品開発アプローチが、革命的な製品を生み出すことはほぼない。 Twitterのような成功物語を支えに、「反復」は近年、多くのプロダクト開発者にとって合言葉のようになってきた。反復主導のアプローチでは、最初に「こういう製品にしたい」という明確なビジョンを持たない。むしろ、手持ちのものをただ改善して、新しいバージョン、つまり反復バージョンを作っていく。そして、市場シェア獲得のような当面の目標を達成するまで、反復を重ねて「当たり」が出るのを待つのである。
極めて運が良ければ、次のTwitterになれる。しかし、ほとんどの場合は、GMの代表的な電気自動車であるシボレー・ボルトのような、パッとしない製品に終わる。ボルトがひどい車というわけではまったくない。ただ、何も画期的な点がないのだ。なぜなら、GMはこの車を開発する際、何を実現したいのかという明確なビジョンを持っていなかったからだ。彼らは単に、テスラに対抗するため、できるだけ早く、安く、商業的に成立する電気自動車を市場に投入したかっただけである。
その目的のために、彼らは反復主導のアプローチを取った。たとえば、まったく新しい車台を設計する代わりに、既存のガソリン車シボレー・スパークの車台を流用し、その上に作り上げた。結果として生まれたのは、テスラが先駆的なモデル3で主導してきたような自動車産業の「電撃的な革命」ではなく、古い車の「電動化された進化」だった。
ビジョン主導の製品開発は、反復よりも優れた代替手段となる
テスラ・モデル3の何が革命的だったのか? まず第一に、製品の背後にあるビジョンである。GMとは異なり、テスラは単に電気自動車を市場に投入したかったわけではない。化石燃料からの世界的な移行を加速させる車を作りたかったのだ。
その方法とは、性能を妥協せず、大金もかけずに電気自動車に乗れるようにすることだった。だが彼らは、曖昧なビジョン・ステートメントを書いて、ウェブサイトに貼り付けてすぐに忘れてしまったわけではない。モデル3を開発する間、あらゆる決断と革新がそのビジョンに沿うようにしたのだ。つまり、彼らはビジョン主導のアプローチを製品開発に取った。それが彼らの成功の秘訣であり、それはあなたにとっても成功の鍵となりうる。
ここでのポイント:ビジョン主導の製品開発は、反復よりも優れた代替手段となる。 反復主導のアプローチの問題点は、ビジョンがないと、各反復を評価する基準が短期的なビジネス目標だけになってしまうことだ。これらの目標は、収益やユーザー数といったKPI(主要業績評価指標)として数値化され、それを追求することに躍起になる。しかしそれは、本当に大切なことを見失わせる。たとえば、あなたのウェブサイトの最新バージョンが、よく使われる顧客エンゲージメント指標である「サイト滞在時間」を伸ばしたとしよう。喜ぶべきだろうか?
いや、もしかすると的外れかもしれない。本来のゴールが、顧客が素早く用事を済ませてサイトを離れられることならば、むしろ逆効果だ。短期的でビジョンなき考え方は、手抜きにもつながる。GMがガソリン車の車台に電気自動車を乗せたように、安く市場シェアを取りたいだけなら、そうしてしまえばいい。
対照的に、テスラはモデル3をゼロから構築し、開発プロセスのあらゆる段階でゴールを見据えた。車の各コンポーネントについて、「高性能と手頃な価格の両立という目標に貢献するために、この部品の効率を最大限にするにはどうすればいいか」と自問したのだ。これは、他のEVにあるようなバッテリー、モーター、室内などの個別冷却システムではなく、車全体に統一的な冷却システムを採用するといった、ビジョンに統合された数々の最先端イノベーションを生み出した。こうして彼らは、ビジョンをゲームチェンジングな現実へと変えたのである。
明確で力強いビジョンを作るには、問題中心、具体的、かつ有意義なものにする
ビジョンがなければ、製品は行き先のない車のようなものだ。反復によってスピードを上げられても、行きたい場所がわからなければ意味がない。間違った道を猛スピードで進むだけになりかねない。手抜きやKPIへの固執は、そうした袋小路のほんの二例に過ぎない。
煮え切らないアイデアから別のアイデアへ、あてもなくピボットし続けるという罠にも陥るかもしれない。あるいは、個々の顧客や投資家、取締役会の気まぐれに応じるためだけに、無関係なアドオン機能を付け加えて、製品を迷走させたり肥大化させたりするかもしれない。こうした誘惑に直面しても、そもそもビジョンがなければ焦点を定められない。だからこそ、RPTのビジョン主導型製品開発の第一歩は、ビジョンを創り出すことなのである。ここでのポイント:明確で力強いビジョンを作るには、問題中心、具体的、かつ有意義なものにする。 多くの企業がビジョン・ステートメントを持っているが、そのほとんどは、いくつかの決定的な問いに答えられていない。
まず、あなたの製品は世界にどんな問題を解決したいのか? ここで重要なのは「世界にとって」である。自社が10億ドル企業になることや業界のリーダーになることなど、自分たちが達成したいことに焦点を当ててはいけない。他者のために創り出したい変化に焦点を当てるのだ。たとえば、インドの食品・消費財メーカーであるリジャットは、有名なレンズ豆のせんべい「パパダム」をたくさん売ることだけを望んでいるわけではない。彼らは、貧困に苦しむインドの女性たちが尊厳ある生活を送り、経済的に自立するための持続可能な手段を提供することで、彼女たちが直面する社会経済的な問題の解決を助けたいのだ。
これは具体的で、かつ有意義なビジョンである。高潔な目標を中心に据えているため、会社に関わるすべての人にとって意味のあるものになる。だが単に「女性のエンパワーメント」といった漠然とした高揚感あるメッセージではない。特定の問題群に直面する特定の人々に対し、リジャットが創り出したいと望む具体的な変化を、明確に記述したものなのだ。
あなたが助けたいと願うのは、正確には誰なのか? あなたの製品がもたらす解決策とは、具体的に何なのか? そして、それはなぜあなたや、影響を与えたい人々の人生にとって有意義なのか? こうした問いに答える必要がある。
人々の本当の悩みを知り、成功に必要な設計、能力、物流を明確にする
明確で力強いビジョンができれば、製品をまったく新しい視点で見られるようになる。それはもはや、単なる電気自動車やパパダムではない。あなたが世界に起こしたい変化を実現するための「仕組み」なのだ。次に問われるのは、その仕組みをどう動かすかである。
それには戦略が必要であり、それがRPTアプローチの次のステップだ。RPTには、ビジョン主導の勝てる戦略の主な構成要素を覚えるための便利な頭字語がある。それは「RDCL(ラディカルと発音)」:Real pain points(本当の悩み)、Design(設計)、Capabilities(能力)、Logistics(物流)だ。これらの要素を組み合わせれば、ビジョンを実践に移す準備が整う。ここでのポイント:人々の本当の悩みを知り、成功に必要な設計、能力、物流を明確にする。 1959年、リジャットはテラスで7人がパパダムを伸ばすところから始まった。
今日では4万5000人以上の女性を雇用している。その成功の鍵の一つは、インドの貧しい女性たちの真の悩みを把握していたことだ。彼女たちが生きるのは極めて家父長的な社会であり、家計の管理権はほとんどなく、家族の主たる介護者としての重荷を背負い、正規の教育や伝統的なキャリアの機会へのアクセスがない。リジャットは会社の運営モデルを設計するにあたり、女性たちのこうした現実の悩みを念頭に置いた。パパダム工場での仕事を提供しても、家の責任を放り出せないから助けにならないことを理解し、彼女たちが子どもや年老いた親の世話を続けられるよう、自宅で働けるようにしたのだ。
また、その日の労働の終わりに賃金を支払うことで、日々の家計支出に関与できるようにした。リジャットと同じように、あなたも、自分が貢献したい人々の本当の悩みに対処できるように製品を設計する必要がある。それができたら、次にその設計を実現するために活用すべき能力を見極めなければならない。それは有形・無形のリソースだ。
たとえば、Netflixにはレコメンデーション・アルゴリズムを動かす視聴データが必要であり、Airbnbには他人がアパートを見知らぬ人に貸してくれるという信頼が必要だ。最後に、物流も忘れてはいけない。製品をどう販売し、届け、サービスを提供するのか? これはビジネスモデルの細部に踏み込むものだ。
ビジョンを見失わず成功するために、優先順位を忘れない
これで戦略ができた。ビジョンを達成するための俯瞰的で大きな全体像が得られた。しかし、高いところから見るとすべてがとても単純に見える。ひとたび地上近くに降りてみれば、世界ははるかに複雑な場所に見える。
とりわけビジネスの領域では、日々、あらゆる困難な決断、トレードオフ、プレッシャーに直面する。この荒れた道をビジョン主導でどう乗り切るのか? それがRPTアプローチの次のステップである。ここでのポイント:ビジョンを見失わずに成功するために、優先順位を忘れない。 ビジョン主導の会社の意思決定者として、結局のところ二つの最優先事項がある。ビジョンに向けて前進することと、事業として生き残ることだ。あなたのあらゆる選択は、ビジョンに適合するかしないかのどちらかであり、会社の存続リスクを減らすか増やすかのどちらかである。
それによって四つの可能性が生まれ、それを意思決定空間における四つの象限としてイメージできる。両方の必要条件を満たす選択、つまりビジョン適合度が高く、リスクも軽減する選択なら、理想の象限だ。逆に、どちらの必要条件も満たさない選択、つまりビジョン適合度が低く、リスクを高める選択は危険の象限だ。この最初の二つは迷う余地がない。
基本的に、理想の象限の選択肢は積極的に取り入れ、危険の象限の選択肢は避けるべきだ。次の二つの象限が厄介なところである。ビジョン適合度は高いが、リスクを高める選択がありうる。これがビジョンに投資する象限だ。たとえば研究開発に資金を投じることは、短期的な利益を圧迫する支出だが、長期的な目標達成に必要な技術をもたらすかもしれない。最後に、ビジョン適合度は低いが、リスクを軽減する選択だ。
たとえば、ビジョンとは無関係だが、どうしても必要な資金を確保できるプロジェクトを引き受ける、などが考えられる。時にはそういうことをせざるを得ない。ただし、自分たちが何をしているのか、つまりビジョンから時間とリソースを割いているのだということを自覚すべきだ。そうすることで、あなたはビジョン負債を積み重ねる象限に足を踏み入れている。負債をため過ぎず、かつビジョンに投資することで返済することをあまり先延ばしにしない限り、それも許容される。とはいえ、ビジョン負債は可能な限り避けるべきであり、リスク軽減よりもビジョンへの投資を優先する機会を増やすべきだ。
製品をテストし反復する際は、正しいものを測定しているか確認する
ビジョン、戦略、意思決定の優先順位が固まったら、いよいよ製品開発に本腰を入れる準備ができた。常識的には、次に製品を市場でテストし、顧客の反応を見て、それに従って反復していくという手順になる。しかしNackというアプリの話は、このアプローチの危険性を物語っている。このアプリの背後にあるビジョンは、イタリアの伝統である「サスペンデッド・コーヒー」を実践できるようにすることだった。これは、コーヒーショップに行き、自分の分ともう一人の見知らぬ人の分と、二杯のコーヒーを買うという慣習である。
常識に従い、Nackの創業者ポール・ハウンはアプリの利用指標を注意深く監視し、数字が伸びるものに基づいて反復を繰り返した。すべてがうまくいっているように見えたが、ある日、ハウンは恐ろしい発見をする。ここでのポイント:製品をテストし反復する際は、正しいものを測定しているか確認する。 Nackの日次ユーザー数は伸びており、ユーザーのアプリ滞在時間も増えていた。これはアプリ開発者が通常ありがたがる種類の指標のため、ハウンは喜んでいた。ところが、ほとんどの人がただでコーヒーをもらうためだけにアプリを使っていることに気づく。彼らはNackを、意図された精神、つまり「ランダムな親切行為を受け取るだけでなく、それを次の誰かに送る」という使い方をしていなかったのである。
一杯の無料コーヒーを受け取ったら、次に別の誰かのためにコーヒーを買い、その人がさらに第三者のためにギフトを繰り返していく。それが本来の仕組みだ。この話の教訓は? 確かに、製品への反応をテストし、測定し、それに応じて反復すべきである。ただし、正しい指標を選ぶこと、つまり、ビジョン達成に向けて前進しているかを測定するものを選ぶことが重要だ。Nackの場合、主要な指標は何人がアプリを使っているかではなく、何人が他者にコーヒーをギフトしたかだったのだ。
この数字が低いと分かった後、彼らは問題に対処するためにアプリを反復した。新しくなったNackでは、ユーザーはギフトを受け取ると二杯の無料コーヒーを得られるようになった。一杯は自分のため、もう一杯は誰かに贈るためだ。この方法で、アプリはユーザーにギフトを贈る精神を学ばせた。すぐに、相当な割合のユーザーが、他の人のためにコーヒーを買うのにお金を使い始めた。
有意義でビジョン主導の仕事を強調し、ビジョン主導の企業文化を創る
ここまでで、RPTアプローチの五つのステップのうち四つを用いて、ビジョン主導の進め方を見てきた。だが、あなたが他の多くの人を巻き込む企業のリーダーや従業員だとすれば、自分一人がビジョン主導であるだけでは不十分だ。他の全員もビジョン主導である必要がある。そこで、RPTアプローチの最終ステップに至る。ビジョン主導の企業文化を創ることだ。
「企業文化」という言葉は、最近では少し曖昧なバズワードになってしまった。より具体的にするために、社員があなたの会社で働く経験の総体だと捉えよう。この経験は、仕事が満足感を与えるかどうかと、緊急度が高いかどうかによって四つの象限に分類できる。最初で最も重要な象限が、有意義な仕事である。ここでのポイント:有意義でビジョン主導の仕事を強調し、ビジョン主導の企業文化を創る。 有意義な仕事とは、満足感はあるが緊急ではないタスクをすべて含む。
それは、会社の長期的ビジョンの達成など、より大きな目的に貢献するが、時間的な切迫感はない。会社の短期的な存続や成長がかかっているわけではないのだ。全員がミッション主導であると感じられるようにするためには、できるだけ多くの仕事をこの象限に収めるべきである。第二に、ヒロイズムの象限がある。これは満足感があり、かつ緊急でもある仕事だ。
ここでは、重要だが時間的なプレッシャーの下で何かを行う。たとえば、時間的制約のある重要な顧客の問題を緊急修正するようなケースだ。こうした仕事は短期間なら刺激的に感じられるが、しばらく続くと疲弊する。燃え尽きを防ぐには、妥当な範囲内に制限する必要がある。第三に、組織のサボテンの象限がある。これは、煩わしいがやらなければならない仕事で、管理上の書類記入などが該当する。
こうした仕事の多くは最小化可能であり、またそうすべきである。人々が有意義な仕事に集中できるようにするためだ。最後に、魂を吸い取られる象限がある。ここでは、満足感も必要性もないことをしている。たとえば、報復を恐れて異論が言えないために、口を閉ざして座っている会議などが例だ。こうした経験は可能な限り排除すべきである。では、こうしたパターンに合った企業文化をどう作ればいいのか? それには、文化そのものを製品と見なし、RTPアプローチを使うのだ。
あなたが持ちたい文化の、明確で力強いビジョンを創る。次に、そのビジョンを達成するためのRDCL戦略を設計する。最後に、ビジョン主導の指標と優先順位を使って、賢明な意思決定を行い、結果に対する有意義な測定値を集めるのだ。
最終的なまとめ
反復それ自体に、本質的に悪いところはない。それどころか、製品の新しく改良されたバージョンを作り出す努力はすべきである! 反復が問題になるのは、それがより大きなビジョンに仕える強力なツールとしてではなく、製品開発の決定的な特徴になってしまったときだ。明確で力強いビジョンこそが、戦略、測定指標、企業文化の設計を含む、製品開発プロセスのあらゆる段階を駆動していなければならない。





