これからの10年、世界はどこへ向かうのか ── 米国「意図せざる帝国」の地政学を読み解く

『ネクスト・ディケイド』(2011年)は、国際舞台で優位を保とうとするアメリカの行動が、世界各国・各地域の行方をいかに左右するかを探り、読者に未来への洞察を授けてくれます。

この本のエッセンスは? 来たる10年の地政学を深掘りする。

世界史は巨大帝国の記録に満ちている。ローマ、中国、スペイン、イギリス……いずれも歴史の流れを変え、長期にわたる地政学的影響を刻んできた。ソ連崩壊後、新たに遠大な影響力を持つ帝国が登場した。アメリカ合衆国である。

しかし、かつての帝国とは違い、アメリカは他国を広範に植民地化してその地位を得たわけではない。いわば「意図せざる帝国」だ。それでも、この意図せざる帝国の地政学的判断は、自国の安全保障と広範な国益を軸に動いている。次の10年の世界を見通すには、アメリカの視点から国際情勢を捉えなければならない。本書でわかること:

  • なぜイランが中東におけるアメリカの政策の鍵を握るのか
  • なぜアメリカが注力すべき国はアフガニスタンではなくパキスタンなのか
  • なぜトルコが近い将来アメリカの重要な同盟国になるのか

アメリカは帝国の力を有しており、今後の大統領がそれを賢く行使していく必要がある。

世界に影響力を広げてきたアメリカは、いま古代ローマが直面したのと同じ難題にぶつかっている。共和国を手放さずに帝国を維持することだ。アメリカが持つ軍事力は国土や人口に比べて突出しており、経済規模も二番手の国を大きく引き離している。この唯一無二の超大国という立場は、2001年9月11日の同時多発テロのように、地政学的支配の象徴として標的にされる危険も招く。

将来の目標を達成するために、アメリカは一人の人物に大きく依存する。大統領だ。アメリカ大統領は世界で最も強力な政治指導者であり、戦争、平和、経済に関する決断は地球の隅々に波及し、数十億人の暮らしを左右する。たとえばイラク侵攻は、この10年の中東全体を根底から揺さぶり、安全を求めてヨーロッパへ押し寄せる難民の波さえ生んだ。帝国の運営という現実に向き合えば、大統領が美徳を実践する余地はほとんどない。

アメリカの国益を守るために、大統領は情を排したアプローチを取らざるを得なくなる。最も危険な敵を見極め、必要な連合を築き、それを操縦するのだ。これは結局、NATO、国連、IMFといった古い同盟関係を見直し、アメリカの利益を冷酷に守った歴代指導者の実利的な先例に従うことを意味する。たとえばフランクリン・D・ルーズベルト大統領は、自国民に苛烈な政策を敷いた独裁者スターリンと手を結ぶことで、第二次世界大戦でナチス・ドイツ打倒に貢献した。

金融危機の解決には、経済政策以上に政治的決断が必要となる。

過去10年間に起きた二つの巨大な出来事が、近未来の展開を決定づける。2008年の金融危機と、ジョージ・W・ブッシュ大統領による9.11同時多発テロへの対応だ。2008年の金融危機は世界恐慌以来の大規模な経済破綻だった。とはいえ、第二次世界大戦以降に起きた同様の経済停滞は、こうした事態への適切な対処法について手がかりを残している。

まず1970年代、大きな要因となったのは1973年の石油危機と停滞する工業生産で、地方債市場が崩壊寸前まで追い込まれた。ニューヨーク市は債務不履行に陥る一歩手前だった。同時期には第三世界の国々も大規模なベイルアウト(救済融資)を必要とし、それは国際機関によって提供された。続く1980年代には貯蓄貸付組合(S&L)が不動産市場に重大なリスクを冒して参入し、経済災害を引き起こして連邦政府の介入を仰ぐ羽目になった。これらの破綻から何を学べるか。どのケースも示しているのは、経済危機に対する本当の処方箋は経済政策ではなく、世論の認識にあるということだ。

大統領は自ら手を下して問題を解決する必要はない。国民に「計画がある」と納得させるだけでよい。有能な大統領であれば、その計画とは、官と民、市場と国家の境界線を動かすことになる。1930年代にフランクリン・D・ルーズベルトがまさにそうした。彼は連邦政府の権限を劇的に拡大し、金融エリートから政治エリートへ権力を移した。そうすることで、エリートが社会を見捨てたという世に広がる感情をなだめたのである。この感情こそ、イタリアやドイツでファシズムを台頭させたのと同種のものだった。これらの事例が示すのは、2008年危機の最も重要な結果は経済ではなく政治面に現れるということだ。今後は経済ナショナリズムが台頭し、国家の拡大が市場の自律性を縮小させ、地政学は政治指導者の手中にしっかりと握られるだろう。

9.11後の中東政策は、この10年で改革が不可避だ。

20世紀全体で見れば、アメリカが戦争状態にあったのは17%に過ぎない。しかし21世紀に入ってから、アメリカは恒常的に戦い続けている。なぜそんな状況に陥ったのか。そして、何を変えなければならないのか。9.11以前、中東におけるアメリカの政策は、勢力均衡を保って現状を維持するという旧来の戦略に従っていた。

中東におけるアメリカの主たる関心は長らく、アラビア半島とその石油埋蔵量の保護にあった。石油を途切れなく流れさせるため、アメリカは何十年も同じ戦略をとってきた。地域のプレイヤー同士を競わせ、一国に支配されるのを防ぐやり方だ。たとえば、イランとイラクを互いに牽制させ、双方の脅威を数年にわたって中和してきた。しかし9.11後、ジョージ・W・ブッシュ大統領はこの成功戦略を捨てる重大な過ちを犯した。テロによる犠牲を受け入れ、その先に進むのではなく、「対テロ戦争」を宣言したのだ。実際にはテロは、アメリカの安全保障にとって代え難い実質的脅威ではなかったし、今もそうである。

対テロ戦争という外交政策は、アメリカへの脅威と釣り合わず、そうした不均衡はほかの敵に隙を生み出している。結果としてアメリカは、イラクから軍を撤退させればイランへの抑止力が失われるという、身動きの取れないジレンマに陥った。ブッシュはイラクで深刻な誤算を犯した。独裁者フセインを排除した後、イラクのシーア派の権力掌握を支援したことで、実質的に親イラン政権を助ける形になったのだ。いまやアメリカがイランへの軍事的抑止力を示すには、同地域に軍を留め続けるしかなく、長期的に戦力を固定され、世界中の他の拠点を弱める結果となっている。

この状況に正しく対処するには、中東政策を根本から見直さねばならない。アメリカのイラク侵攻はイランとイラクの勢力均衡に甚大な影響を与えた。アメリカ軍の撤退は、この均衡を再び変えた。イランは軽視できない勢力であり、そのひとつの要因は比較的大きな人口にある。

イランは今、中東の地政学的重心となっている。

隣国イラクの人口はわずか3000万人、サウジアラビアは2700万人。これに対しイランは7000万人を誇る。人口に加え、宗教的帰属も大きな力を与えている。イスラム教の二大宗派、スンニ派とシーア派は何世紀にもわたって対立してきた。

イランはシーア派国家であり、イラクも同様だ。両国を合わせた力は、域内のどのスンニ派国家よりも重みを持つ。人口だけでなく、イランの立地も絶好だ。山がちの国境は天然の要塞となり、まさに「難攻不落」の地形を形作っている。確かにイランは手強い国だが、それでもアメリカは歴代のイラン政権の動揺を狙って何度も介入してきた。その試みはことごとく失敗に終わった。イスラエルが最近持ち出したようなイランの核施設への攻撃は、現状よりもさらにイランを危険にさせるだけだ。

おそらくイランは、石油輸出タンカーの45%が通るホルムズ海峡を封鎖するだろう。その結果、原油価格が高騰し、世界経済は深刻な打撃を被る。いまや隣国イラクが事実上無力化されたことで、イランは直接侵略から安全な立場を固めている。では、アメリカとイランの関係はどうなるのか。

敵対関係にもかかわらず、嫌々ながらでも停戦は避けられそうにない。実際、イランにはその合意に至る十分な理由がある。イランの目には、アメリカは予測不能で危険な存在と映っている。何しろここ数十年、最大の敵であり続けたのだから。一方でアメリカは、イランにとっても敵であるスンニ派のテロ組織と戦っている。

トルコは将来、中東でイランの支配に挑戦する存在となる。

アメリカはイランに完全な自由を与えるつもりはない。よほどの“伏兵”でもなければ、このまま放置はしない。数年以内にアメリカは中東の勢力均衡を再調整せざるを得ず、長期的に見てその役目を果たせる親米の地域大国はトルコしかいない。約7000万人の人口と世界第17位の経済規模を持つトルコは、すでに中東で支配的地位を築いている。加えて、域内最強かつ欧州でも屈指の軍隊を有している。

アラビア半島をイランに牛耳られることは、トルコの国益に反する。端的に言えば、イランが自国より強大になり、地域のリーダーの座に就くのをトルコは望んでいないのだ。さらに、トルコは域内の石油資源に着目しており、地域での影響力を強めることでロシア産エネルギーへの依存を減らそうとしている。では、トルコの野心を周辺国はどう見ているのか。アラブ世界はトルコを後押しするだろう。トルコがスンニ派の国であること、そしてトルコと同盟を組むことが身の安全を図る最善手だからだ。イランが力をつけるほど、アラビア半島のスンニ派にとって立場は悪くなる。

イランが台頭するにつれ、スンニ派の歴史的なパートナーであるアメリカは、アラビア石油への依存を減らすなかで保護提供への関心を徐々に失っていくだろう。スンニ派がトルコを推す以外に道はなくなる。長期的に見れば、イランはトルコの台頭を抑えきれない。経済面ではトルコの方が活力があり、軍もより強力だ。アメリカもトルコの台頭を支援する。両国は、この地域を自らの利益にかなうかたちで安定させる潜在的なパートナーと見ているからである。

アメリカが本当に注視すべきはアフガニスタンではなく、パキスタンだ。

東地中海からヒンドゥークシュ山脈に至る地域は、アメリカの外交政策の明確な焦点だ。地域の勢力均衡維持、石油の流通確保、イスラム主義勢力の掃討。これらがアメリカの追求する主目標である。しばらくの間アメリカはアフガニスタンで積極的に動いていたが、目標達成のうえでは隣国パキスタンの方が戦略的に重要である。一つには、いま形作られつつあるアフガニスタン政府はアメリカに深刻な脅威をもたらさない。本当に憂慮すべきはパキスタンとインドの力関係だ。独立以来、核保有国である両国は緊張状態を続けてきた。

この膠着状態こそが、アメリカにとって有利な地域均衡を保っている。しかしインドがパキスタンに対して圧倒的優位に立てば、均衡は崩れかねない。したがってアメリカは今後10年、パキスタンの国力強化を助け、インドに対抗できる高度な軍隊の建設を支えるべきである。そのためにはアフガニスタン戦争を終結させ、間接的に紛争に巻き込まれてきた隣国パキスタンへの圧力を和らげる必要がある。パキスタンをインドへの牽制力として再生できれば、同時にアフガニスタンへの対抗力としてもパキスタンを蘇らせることになる。まさに一石二鳥だ。

結局のところ、アメリカのアフガニスタン介入は無益だったと証明されるだろう。タリバンを一掃するという所期の目標は果たせなかった。アフガニスタンとパキスタンに根ざすジハード勢力は、アメリカ軍が留まろうと撤退しようと、いずれ再び姿を現す可能性が高い。アフガニスタン戦争はベトナム戦争と同じ結末を迎えるだろう。すなわち、武装勢力を交えた和平交渉がまとまり、そしてその勢力が結局は国を掌握するという経緯である。

ロシアが再び国際舞台の中央に戻ってきた。

1990年代初頭にソ連が崩壊したとき、多くの人はロシアを国際的なプレイヤーとして考えるのをやめた。だが今日の世界政治におけるロシアの立ち位置を見れば、そうした論評は早急に過ぎたと言わざるを得ない。2000年に大統領に就任したウラジーミル・プーチンは、強い国家への依存を強調し始めた。軍を再建し、軍事力を誇示することで国際舞台でロシアの力を回復しにかかったのだ。

さらに彼は天然資源の輸出に重きを置いて経済の舵を切った。概して過去10年のプーチン戦略は成功を収めてきたが、ロシアは将来に向けて新たな活路を見出さねばならない。プーチンが注力したエネルギー生産と天然資源は、思ったほど立ち上がらず、彼が望んだ近代経済の強固な基盤にはならなかった。全体としてロシアは依然として脆弱な国であり、立場を強化するには西側との戦略的同盟を必要とする。たとえばドイツとの関係だ。ロシアにはドイツが生み出す技術が必要であり、ドイツはロシアが供給する天然ガスを必要としている。

ロシアはこの関係をさらに発展させたい考えで、アメリカ主導の「対テロ戦争」後に生じた欧州とアメリカの亀裂を利用しようとしている。ロシアの拡大そのものはアメリカの利益を脅かさないが、欧州とロシアの連携が進めば確かに脅威となる。ユーラシアにおいても、他地域と同様、アメリカの目標はただひとつだ。のちに世界的な挑戦者へ成長しかねない地域大国の台頭を阻むこと。ロシアと欧州の連携を成功させないために、アメリカはドイツとロシアの協調を断ち切り、ロシアの勢力圏を後退させねばならない。

そうした目的を果たす代理役として、最も戦略的で理想的に位置するのはポーランドである。ドイツとロシアの間に位置し、両国と悲劇的な歴史を持ち、露独の提携が進むよりはアメリカの利益と歩調を合わせることを望む国だ。来る数年間、アメリカはポーランドとの関係を深めるだろう。技術移転や、反ロシア的な姿勢を取るポーランド政府への支援などを通じて、その結びつきは強まるはずだ。

欧州連合は今後10年で弱体化する。

これからの年月、欧州諸国の内部で地政学的緊張は激しさを増し、欧州連合(EU)の将来は不透明になる見込みだ。EUが直面する問題は二つある。一つ目は復活しつつあるロシアとどのような関係を築くか、二つ目は欧州経済で最も活力のあるドイツをEU内にどう位置づけるかである。

つまりは、こうした問いに尽きる。二度の世界大戦を招いた地政学的な理屈が再び前面に出るのか、と。二つの大戦は同じパターンをたどった。周囲を利害の異なる国々に囲まれて有力だが不安定な立場に置かれたドイツが、最大のライバルであるフランスに電撃的な奇襲をかけるというものだ。ドイツは2008年の経済危機から比較的無傷で抜け出し、それにより近隣諸国との不均衡を生み、孤立した。2008年の破綻が浮き彫りにしたのは、欧州が単一の地政学的勢力として結束するにはほど遠いという現実だった。危機の最中から事後にかけて、欧州の第一決定者に見えたドイツが、弱い国々への救済措置に反対したことは、EUの一体性が当初考えられていたよりも脆いことを示している。同時に浮かび上がる現実は、欧州の歴史的統合は元来、ソ連の脅威に対抗する必要性から押し付けられたものだったということだ。

欧州の連邦的な組織形態と統合モデルは、時を経ても深い結束に育ってはいない。今日でも各国民国家は、ユーロ採用を独自に判断し、自国の歴史とアイデンティティに固執し、共通防衛政策に踏み切ろうとしない。アメリカの帝国的利害からすれば、今後10年の方策は、こうした不一致を活かして欧州とロシアの接近を妨げることだろう。そのためには、仏独の連携を分断し、欧露連合の可能性を狭め、露独提携を弱める必要がある。EUそのものが消滅はしないにせよ、近い将来には何カ国かがユーロ圏を離脱するだろう。そして統一された軍事力なくして、EUが真の力を手にすることは決してない。

まとめ

本書の核心的なメッセージ:二度の世界大戦で欧州が荒廃した後、アメリカは新たな超大国として台頭した。この「意図せざる帝国」がいかに運営されるかを理解すれば、アメリカが利害を持つあらゆる地域で、次の10年、世界がどう動くかが見えてくる。

推奨される次の読み物:『アクシデンタル・スーパーパワー』ピーター・ゼイハン著 今日、アメリカは世界唯一の超大国として揺るぎない地位にあるが、世界は過去に例を見ないスピードで変化している。この要約では、アメリカが政治・経済の両面で地球を制するに至った理由と、今後数十年間にアメリカと世界に起きうることを展望する。

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